「がん保険はいらない」——ネットでこの言葉を見つけて、ホッとした人もいるかもしれません。逆に「本当に入らなくて大丈夫?」と不安になった人もいるはずです。
先に私の立場を言っておきますね。私はFP2級で、保険業界で事務の仕事をしていたこともある一人の生活者です。そして——私自身は、がん保険に入っていません。
でも、「だからあなたもいらない」とは言いません。それは乱暴すぎるからです。
がん保険が必要かどうかは、他人の意見ではなく「あなたの家計で引き算した結果」で決まります。今日は、その引き算に必要な材料を全部お渡しします。
2026年8月の制度見直しも踏まえて、正直に検証していきますね。
この記事でわかること
- 高額療養費制度で医療費はどこまでカバーできるか(年収別の上限表つき)
- 2026年8月の制度見直しで、何がどれくらい変わるのか
- 制度で守れない4つの出費と、最大の盲点「収入減」
- がん保険を検討すべき人・しなくていい人の切り分け
まず、あなたの最強の味方を確認|高額療養費制度
がん保険を考える前に、絶対に知っておくべき公的制度があります。高額療養費制度です。
これは、1か月(1日〜末日)にかかった医療費の自己負担が上限を超えたら、超えた分が戻ってくる仕組み。上限は所得によって決まります。
| 年収の目安(69歳以下) | ひと月の自己負担上限 | 医療費100万円なら |
|---|---|---|
| 約1,160万円〜 | 252,600円+(医療費−842,000円)×1% | 約25.4万円 |
| 約770〜1,160万円 | 167,400円+(医療費−558,000円)×1% | 約17.2万円 |
| 約370〜770万円 | 80,100円+(医療費−267,000円)×1% | 約8.7万円 |
| 〜約370万円 | 57,600円 | 57,600円 |
| 住民税非課税 | 35,400円 | 35,400円 |
※2026年7月までの金額。表は概算です。
たとえば年収約370〜770万円の人なら、100万円の医療費がかかっても、実際の自己負担は月9万円ほどで済みます。
がんの治療は高額なイメージがありますが、この制度があるおかげで、医療費が青天井になることはありません。「いらない論」の最大の根拠がこれです。
私自身、以前に手術で入院したとき、この制度に本当に助けられました。その実体験はこちらに書いています。
【婦人科手術・入院6日間で84,300円だった話|高額療養費制度を使いこなした実体験】
【2026年注意】制度は8月から少し変わります
ここは正直にお伝えしないといけません。高額療養費制度は、2026年8月から段階的に自己負担の上限額が引き上げられます。
| 年収の目安(69歳以下) | 2026年7月まで | 2026年8月から | 増える額 |
|---|---|---|---|
| 約1,160万円〜 | 252,600円+1% | 270,300円+1% | +17,700円 |
| 約770〜1,160万円 | 167,400円+1% | 179,100円+1% | +11,700円 |
| 約370〜770万円 | 80,100円+1% | 85,800円+1% | +5,700円 |
| 〜約370万円 | 57,600円 | 61,500円 | +3,900円 |
| 住民税非課税 | 35,400円 | 36,900円 | +1,500円 |
※「+1%」は上の表と同じ「(医療費−基準額)×1%」部分の略。所得区分のさらなる細分化は2027年8月からの予定です。
とはいえ、制度そのものは健在です。
長期治療者の負担を抑える「多数回該当」(直近12か月で3回以上上限に達したら4回目から上限が下がる仕組み)の金額は据え置かれます。さらに今回の見直しでは、多数回該当に届かない長期療養の人向けに「年間の負担上限」も新しく設けられる予定で、長く治療する人への配慮はむしろ手厚くなる面もあります。
「制度がなくなる」わけではなく、「守りは続くけれど、月々の負担は少し増える方向」
これが正確な理解です。
「上限が上がるならがん保険に入らなきゃ」と焦る必要はありません。
ただ、「公的制度も少しずつ厳しくなっている」という時代の流れは、頭に入れておいて損はありませんよ。
それでも、高額療養費で守れないもの
高額療養費制度は強力ですが、万能ではありません。ここが今日いちばん大事なところ。
制度でカバーできない出費が、実はけっこうあります。
- 先進医療・自由診療:保険適用外の治療(重粒子線治療など)は高額療養費の対象外。
全額自己負担で、数百万円になることも - 差額ベッド代:個室や少人数部屋を希望すると、1日数千円〜。これも対象外
- 入院中の食事代・雑費・交通費:こまごました出費は制度の外
- そして最大の盲点——治療中の「収入減」
4つ目を強調させてください。高額療養費制度は医療費は助けてくれますが、あなたが働けない間の生活費は1円も助けてくれません。
がんで家計が苦しくなる最大の理由は、治療費そのものより「収入が減ること」なんです。
がん治療は長引くこともあり、その間に収入が減る・止まるリスクがある。
ここを見落とすと、引き算の答えが変わってしまいます。
とくにワーキングママの場合、自分が休むだけでは済まないこともありますよね。
通院のために時短勤務に切り替えれば給料もボーナスも減りますし、家事や子どもの送迎を外注すれば、収入が減るのと同時に支出は増える。
「収入減」は、金額の計算以上に家計にじわじわ効いてくるんです。
考えるべきは「がん保険」より「働けないリスク」
ここまで整理すると、見えてくることがあります。がんに備えるとき、本当に考えるべきは「治療費」ではなく「治療費+収入減に、自分の家計は耐えられるか」なんです。
会社員には、病気で働けないとき給料の一部を支える「傷病手当金」(健康保険から最長1年6か月、給料の約3分の2)という制度もあります。
まずこの公的な支えを確認した上で、それでも足りない分をどうするかを考えましょう。
図解|わが家の「引き算」のやり方
STEP1 必要になるお金を足す
治療費の自己負担(月9万円前後×治療期間)+働けない間の収入減
▼ ここから引く
STEP2 公的制度を引く
−高額療養費(医療費に上限) −傷病手当金(会社員なら給料の約2/3)
STEP3 自分のお金を引く
−貯蓄(すぐ使える預金)
残った「不足分」だけを保険で埋める。不足がゼロなら、がん保険はいりません。
ためしに数字を入れてみましょう。
年収500万円の会社員ママが、治療で半年働けなくなったとします。
医療費の自己負担は高額療養費のおかげで月9万円前後、半年で約50万円+雑費。
収入は傷病手当金で約3分の2が支えられるので、手取りの減少は半年で50万〜60万円ほど。
合計100万円強の「不足候補」を貯蓄でまかなえるなら、保険で備える必要はない
——これが引き算の実際です。
- 十分な貯蓄があり、収入減にも耐えられる → がん保険はほぼ不要。貯蓄がそのまま「自前のがん保険」の役割を果たします
- 貯蓄が薄い、自営業で傷病手当金がない、片方の収入への依存度が高い → 診断時にまとまったお金が出る「一時金タイプ」を検討する価値あり
医療保険全般についての考え方は、こちらの記事でも書いています。
【医療保険はいらない?元保険代理店員が未加入を選んだ理由と公的制度】
がん保険を検討すべき人・しなくていい人
引き算の結論を、切り分けてみます。
しなくていい人に近い
- 生活費の1年分以上の貯蓄があり、治療費+収入減を貯蓄で吸収できる
- 会社員で傷病手当金が使え、配偶者にも安定収入がある(共働きの強み)
検討する価値がある人
- 貯蓄がまだ薄く、大きな出費で家計が傾く
- 自営業・フリーランスで傷病手当金がない
- 世帯収入をどちらか一方に大きく頼っている
- 先進医療も選択肢に入れておきたい(その場合は医療保険の先進医療特約という手も)
大事なのは、「がんが怖いから」ではなく「わが家の家計が、治療費と収入減に耐えられないから」という理由で入ること。不安ではなく、不足で決める。これはこのブログで何度もお伝えしていることです。
FP2級ママの本音|「入る/入らない」の二択じゃない

保険業界の事務をしていたころ、両極端な人を見てきました。
不安をあおられて手厚く入りすぎている人と、公的制度を知らずに「無保険で丸腰」の人。
どちらも、正しい情報があれば避けられた選択でした。
そして、がん保険は「入る」か「入らない」かの二択ではありません。
「診断一時金だけ薄く持っておく」「先進医療特約だけ付ける」といった、中間の選択肢もあります。
フルスペックのがん保険に入らなくても、自分の弱点(=引き算で残った不足)だけをピンポイントで埋めればいいんです。
わが家の場合|私ががん保険に入っていない理由
最後に、私自身の引き算を。
私はがん保険に入っていません。理由は3つ。
- 高額療養費制度で医療費の上限が決まっていること
- 会社員で傷病手当金という支えがあること
- 共働きで、万一のときも世帯の収入が完全にゼロにはならないこと
この3つで「治療費+収入減」を吸収できると判断したので、入っていません。
ただ、これはあくまで「今の私の家計」での結論です。
もし私が自営業だったら、あるいは貯蓄がもっと薄かったら、迷わず診断一時金タイプを検討していたと思います。同じ人間でも、家計の状況が違えば答えは変わる。
だから「私が入っていないからあなたも不要」とは、口が裂けても言いません。
あなたの引き算の答えは、あなたの家計にしかありません。
この記事が、その計算の材料になればうれしいです。
よくある質問(FAQ)
Q. 貯蓄がいくらあれば「がん保険なし」でも大丈夫?
A. ひとつの目安は生活費の1年分です。医療費の自己負担は高額療養費のおかげで年100万円前後が上限イメージ。
そこに収入減を上乗せしても、生活費1年分の貯蓄があれば多くのケースで吸収できます。
住宅ローンや教育費が重い時期は、少し多めに見ておくと安心です。
Q. 「診断一時金タイプ」ってどんな保険?
A. がんと診断された時点で、50万〜100万円などのまとまったお金が一度に受け取れるタイプです。
使い道は自由なので、治療費だけでなく生活費の穴埋め(収入減対策)にも使えます。
保障を薄くすれば保険料も抑えられます。
Q. 専業主婦(主夫)や自営業にも傷病手当金はある?
A. 傷病手当金は勤め先の健康保険の制度なので、国民健康保険の自営業・フリーランスには原則ありません。
専業主婦(主夫)は元々の収入がないため対象外ですが、家事・育児を外注する費用が増える点は見落とさないでください。
傷病手当金がない働き方の人ほど、一時金タイプの検討価値が上がります。
Q. 先進医療特約だけ付けることはできる?
A. 特約単体では入れないのが一般的で、医療保険やがん保険に月数百円程度で付加する形になります。
重粒子線治療など数百万円の技術料に備えられるので、「先進医療だけが不安」という人はここだけ埋める手もあります。
まとめ
- 高額療養費制度で、医療費は青天井にならない(=がん保険不要論の根拠)
- ただし2026年8月から自己負担上限は段階的に微増(年収約370〜770万円で+5,700円)。多数回該当は据え置き、年間上限の新設など長期療養者への配慮は続く
- 制度で守れないもの:先進医療・差額ベッド・雑費、そして最大の盲点は「収入減」
- 会社員なら傷病手当金も味方。まず公的な支えを確認
- 十分な貯蓄+共働き+会社員なら不要に近い。貯蓄が薄い・自営業・収入偏りがあるなら検討を
- 「入る/入らない」の二択でなく、一時金だけ薄く、という中間もある
保険全体をムダなく整える考え方は、こちらもどうぞ。
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